劇場版AIR

川崎のチネチッタでは、平日夜九時からやってくれています。僕らのようなヲタクサラリーマンには非常にありがたい設定といえるでしょう。ちなみに客の入りは15%〜20%といったところ。さすがに少ないです。客層はやはり同類が多かったですね。
で、さすがに公開から日がたっているので、情報もいくらか出てきています。事前にあちこちで様々な情報を仕入れた結果、「ストーリーは全然違う」「キャラクタ設定も違う点が多い」「SUMMER編が凄いことに」などといったところから、「出粼風パロディ版AIR」を見るんだ、という心構えで臨みました。
そのお蔭かどうかはわかりませんが、実のところ結構楽しめちゃったりしました。……いや、パロディーとしてではなく、劇場版としてのAIRのストーリーが、です。まぁ本来の原作のAIRの話とは全然違うものにはなっていましたし、主題も全く違いましたが、「これはこれで!」というところでして、ええ。
さて、じゃあ僕が劇場版AIRをどう見たか。まずキャラクタから一人ずつあげていきたいと思います。(多分、原作を知ってて映画を見た人しか通用しないような)

国崎往人
 国崎往人っぽい外見をした別人? なんかやけに言動がガキっぽかったりしますし、一人語りとか始めちゃったりします。もしかしたら、原作のAIRが始まる前の旅をしているころの国崎往人なのかなぁ、とか思うとしっくりくるかもしれません(←今考えた)。そういうことにしておきましょう。

神尾観鈴
 神尾観鈴っぽい外見をした別人。徐々に体力がなくなっていくという原因不明の病にかかっています。まるで美坂栞のような病ですね。図書館で借りた本に書かれている翼人と同じような病気にかかっている、ということですが、翼人にあこがれたあまり、自分も人を恋すると死んでしまう、と思いこんでいるように見えます。病は気から。
 原作の観鈴に対して、大人びた感じがします。妄想たくましいと思われます(後述)

神尾晴子
 観鈴の伯母。叔母ではありません。その上観鈴ととっても仲良し。セックスアピールが激しい人。自分の感情で背景画を変更することの出来る人。性格は原作の晴子さんに似ているけれど、絵があまり似ていない。しかも頻繁に崩れる。観鈴の病気で、精神がいっぱいいっぱいな感じ。それをお酒でごまかしている。

霧島聖
 ちょい役の町医者。台詞があるだけマシかも。その分、一番原作と変わっていないように見えます。

・橘敬介
 眼鏡が光る人。観鈴の父親らしいけれど、どうして観鈴と離れて暮らしているのか。また、どうしていまさら引き取ろうと思ったのか、全てが謎の人。まぁ、嫌われ役の殴られ役なのでどうでもよし。

美凪・みちる・佳乃
 台詞無しの背景の人達。みちるはまだ何カ所か登場シーンがあるけど、他の二人は一シーンだけ。まぁ、原作知ってる人へのサービスかと。

・神奈
 観鈴が図書館で借りた本を読んで妄想した、翼人の姫の姿。原作のSUMMER編の神奈とは別物。女の子の想像の中の生き物なので、言動はお姫様でないといけない。

・柳也
 観鈴が図書館で借りた本を読んで妄想した、神奈が惚れる人。当然、原作のSUMMER編の柳也とぱ別物。お姫様が惚れるくらいだから、完全無欠のいい男でなければならない。法力で独楽を動かして敵を倒すところから、通称「独楽侍」

・裏葉
 癖のないただの女中。それ以上でもそれ以下でも無し。台詞があるだけ(以下略

さて、上記の脳内補正済登場人物を組み込んだ、脳内補正済劇場版AIRのストーリーはこんな感じ。

 原作の夏から数年前の事。国崎往人は一つの町に降り立った。お祭りで稼ぐのが目的であるが、一応、空にとらわれた少女の手がかりを掴むためでもある。そのお祭りは翼人の祭りなのだ。(翼人に扮した女の子を御輿に乗せて練り歩く祭りだから、相当他所への話は広まっていると思われる)
 またこの町に住む一人の少女がいた。名前は神尾観鈴(仮称)。彼女は原因不明の病にかかっており、本人はそれを、町に伝わる伝説である翼人の呪いと同類のものだと思いこんでいる(これだけ大規模な祭りを行っているのだから、伝説自体も町に広まっていると思われる)。或いは、幼い頃に大好きな母親と死に別れたため、別れの悲しみからの拒否反応から人を好きになると体に異変が起こる、といった状態だったのかもしれない。
 彼女は夏休みの宿題としてフィールドワークを行うこととなる。最初に図書館で借りた本に書かれていた翼人伝説を読み、曖昧にしか知らなかった翼人の話を詳しく知ることになる。愛のために死を選んだことも。
(この翼人の話は、もちろん事実とは間違っている。大体、神奈の閉じこめられていた社から海が見えたら、AIRという話の重要な伏線がなくなってしまうし。もしくは、原作で往人が辿り着いた町同様、神奈の羽根が祭られていたのかも知れない。神社に飾られている絵は、その羽根から漏れた記録を受信した絵師が描いたものだ、とかすると面白いのではないか。羽根がある理由にもなるし)
 そして二人は出会った。(二人の話とクロスオーバーする形で昔の話も語られますが、この昔の話は原作で言うところのSUMMERではなく、観鈴の脳内に展開された翼人の恋の物語の映像化されたものだと思われます。)
 往人に惹かれていく観鈴。しかし往人は言う。「本気で生きているヤツなんて見たことがない」。これは自分自身のことでもある。空の少女を捜すという話を親から聞いたものの、結局彼は探していないし。何となく毎日、日銭を稼いで生きている、いわば現代のフリーターと同じような生き様である。(どうやらこれを監督は書きたかったらしい)
 この言葉、そして翼人の話の後押しもあり、観鈴も決心する。本気で生きるということ。つまり往人に好きだと伝え、本気で好きになること。
 そして急激に体調が悪くなっていく観鈴。これは病の所為もあるだろうし、人に愛を告げると死に至る、という翼人の話を思いこんでいることにもよるかもしれない。
 このような本気の人間を見、その本気を自分に向けられた往人は狼狽する。今までこのような人間にあったことはなかったし、しかもその想いが自分に向けられているわけなのだから。自分なんかに彼女の本気の想いを受け止められる訳もない。どうしようもなくなった往人は、祭りの日に逃げ出してしまう。
 父親である敬介に連れて行かれそうになった隙をついて観鈴は逃げだし神社に隠れる。奇しくも往人は神社にいた。結局観鈴のことを捨てきれない彼は、当初の目的通りじゃないか、と自分に言い聞かせ、神社の屋台の一角で人形劇をやっていたのだ。晴子から観鈴が逃げ出したことを聞いた往人は、激しく後悔する。
 神社と言っても広い。いくら探しても観鈴は見つからない(その代わり出会った敬介――自分の娘だというのに本気で探そうとしない……つまり、往人から見れば先刻までの自分と同じ存在――を殴り飛ばす)。いよいよどうしようもなくなったその時、往人の人形が反応し、観鈴の元へと導いた。
 ――原作のSUMMER編での神奈の旅の願いは「母親に会いたい」「愛する者達と一緒に居たい」。その記憶を持っている羽根が、観鈴や往人の願い、そして自分と元を同じする方術を元にする人形に共鳴し、小さな奇跡を起こした、といったところであろうか。
 そして晴子と往人の元に戻った観鈴は二人と幸せな記憶を積み重ね(アニメ中は表現されていませんでしたが、最後に旅する往人がコートを着ていたことから、夏から大分時間が経っているのだろうと推測)、ついにゴールを果たす。往人は、自分のために本気で生きた少女が居た、という事実を胸に、自分も本気で生きていくことを決意する。空の少女を捜す旅を続けるということを。
 そして数年後、原作の町に辿り着き――

というわけで、ヒロインが「神尾観鈴」でなければ、原作のAIRの前に来る物語として成り立つような気がするけど、どんなもんでしょう? 
……妄想が激しすぎる? ごめんなさい。

さて、ストーリー的な部分は上記の用に自分で補完しつつそれなりに満足したのですが、演出・表現面ではいささか気になるところがあります。
まず、絵が崩れる事が多々あること。顔のバランスが突然狂ったりとか(特に晴子に多い)することがあります。アップの時に崩れられたりすると、萎えると言うよりむしろ怖いです。特に後半になるほど崩れるシーンが増えてきて、「後半になって製作時間が足りなくなったんだろうか?」と思ってしまいました。TV版AIRがあのような手抜き一切無しと思わせる出来映えなので、いっそうはっきり分かってしまいます。
そして演出。というか画面効果、というんでしょうか。よくわかりませんが、まず、止め絵が多い。色鉛筆で塗ったような一枚絵をスクロールするような感じの場面が、結構ありました。それ自体は悪くないと思うのですが、ああ回数が多いと、インパクトが薄れ「ああまたか……」とだれてしまいます。
特に気になったのがゴールのシーン。まぁこのストーリーでゴールをすること自体もどうかと思うのですが(原作に比べてゴールということの重みがあまりに軽すぎる)、その時の表現方法があまりといえばあまりな感じで。以前某所に冗談で、「ゴールシーンは往人と晴子の腕の中に真っ白に燃え尽きつつ三回パンでBGMは青空」とかそんなことを書いたんですが、まさか本当にこんな風になるとは思っていませんでした。正直、それまで泣きそうだったのがこれで一気に冷めてしまいました。
こんな事を書くと「あれは出粼演出というもので〜」などと言われそうですが、どんなものにでも、相性というものと限度というものがあると思うのですよ?


というわけで劇場版AIRですが、僕みたいに妄想たくましい人か、原作に思い入れがない人か、原作を知らない人で、絵にこだわりがない人で、古くさい演出を気にしない人ならばお勧めですかね。
(どれくらいの人が該当するかはわかりませんが)