第9回:困惑

一つ苦々しい思い出がある。あるシナリオ書きのことだ。結果的にではあるが、僕が彼を追い出してしまったようなものだから。
11月頃だろうか。3人のヒロインのストーリーに関して、概要が決まってきた。二人はハッピーエンド、一人はバッドエンド。まぁ、バッドエンドというのは正確ではないのだが。どちらにしろ、ハッピーというわけではない結末である。意味のないバッドエンドはあまり僕は好きではないのだが、彼女の設定を考えると十分に納得のいくところであった。
そして、もう一人、おまけシナリオ的な位置づけのヒロインがいた。外見や口癖などはかなり早い段階から決まっていたのだが、シナリオが決まらなかった。決まらなかった……というより、彼女の担当だったシナリオ書きから、なかなか概要があがってこなかったのだ。だから別に搭載されなくてもかまわない「おまけ」としての位置づけになってしまった、という方が正確か。
一応日常の会話文などは公開されていた。会話、というか、萌えシチュエーションの列記、というか。それを見た自分は勝手に、「偏った萌え中心のシナリオか。おまけシナリオとして相応しいものだ」と思いこんでいた。
だから、彼女のシナリオの粗筋があがってきた時、僕は非常に困惑した。彼女のシナリオはかなりシリアスなもので、エンディングもハッピーエンドとは呼べないようなものであったのだ。
僕はこれに強く反対した。色々と理由はあるが、集約すれば「このシナリオはこのゲームのおまけシナリオとして相応しくない」ということになる。それ以外にも、キャラクタの行動に伏線や理由が見いだせない場面が多い(特にラストのシーン)、とか、本編の設定のうち都合の悪い部分が無視されている、などという問題もあったのだが。
その時、チャットで直接彼とやり取りしたのだが、僕は彼の言うことが理解できなかったし、彼もまた僕の言うことが理解できなかったようだ。例えば「なんでここでこのキャラがこういう行動を取るのか分からない」という問いに、「全てはそこに書いてあることだ、読み取れるはずだ」と返ってくる、といった具合である。突拍子もないキャラクタの行動の裏に隠された感情の動きなど、単なるキャラクタの行動面を書きつづった粗筋から読み取れないというのに。
僕は彼を説得するために、一つのテキストを書いた。このゲームのおまけシナリオとしてどのようなものが妥当なのか、と、自分が考えたおまけシナリオ案――まぁプロットと呼べるものである。粗筋ではなく、人に自分の考えるシナリオを見せるためにはどのように書けばよいのか、という例を示すというつもりもあった。