第1回:『開始』

これはただの思い出である。事実を元にはしているが、事実だと言うつもりはない。もう既に忘れていることもあるし、違えて覚えているところもあるはずだし。
内容は、同人ゲーム作成の過程……といったところか。いろいろなことがあった。最後に幸せな記憶を、というわけにはいかなかったけれど。
さて、僕が彼からゲーム制作に誘われたのは……もう5年近くは前のことだったろうか。どこかのファミレスで食事中のことだったと思う。
そこにあったのはキャラクタの設定を書き記した何枚かの紙。だが、どんなゲームを作りたいのかまったく見えてこない。それに対する彼の答えは、Kanonの様なアドベンチャーゲームを作りたい、ということであった。
なるほど、彼の周りには文章を書ける人間もいれば、絵を描ける人間もいる。彼らを集めれば、ゲームの一つも容易に作れる、と思ったのだろう。……多くの人間が思い違いするように。人を集めるということは簡単でも、人をまとめるということは難しいことだ。ましてや何かものを作るということになればなおさらである。
彼は最後に、僕に対して参加して欲しい、と言ってきた。しかし僕は逆に、ゲーム制作を止めることを進言した。どうせ今盛り上がっているだけだと思っていたし、彼に人をまとめることは出来ない、と思っていたからだ。彼にそれを問うと、実に見当はずれな答えが返ってきた。
「オフ会とかちゃんと仕切れているから大丈夫だよ」
である。
自分がこのプロジェクトに参加したのは、この答えを聞いたから、というのもあるかもしれない。こんな考えでは危なっかしくて目を離しておくこともできないではないか。