第8回:減退

いつ頃からだろうか。ゲームを作るために人を集めた本人が、チャット等に姿を見せなくなっていた。一応連絡は取れる状態になっていたので話を聞くと、仕事が忙しい、という答えが返ってくる。
前兆もあった。あれは何のイベントだろう。体験版を売るということでサークル参加した。売り子は主催者当人がやるはずだったのだが、当日そのスペースで売り子をしたのはこのプロジェクトに参加していない、全くの部外者だった。当人は仕事が忙しかった、という。そのイベントは日曜日なのだが。
そもそも、仕事が忙しい、にしてはネットゲームに入り浸っているし、大作ゲームを何本もクリアしている。もちろん、仕事が大変だからその手のゲームで現実逃避している、というのもあるだろう。しかし。彼がゲームを作りたい、と人を集めたのである。集めたということに対する責務は果たしてもらいたいところではないか。なにより、彼が音頭を取り、叱咤激励しないとプロジェクトが立ち行かなくなる。事実、ゲームの制作は遅れ始めていた。
そんなある日、一度彼とサシで飲んだことがある。時期は思い出せないが、場所は秋葉原のガード下にある洋風居酒屋だったろうか。現状について問いつめると彼は、「飽きた」といったようなことを口にした……気がする。まぁ飲んだ席での話なので定かではないが。それに、その場の追求を逃げるために、こちらの問いに首を縦に振っただけかもしれない。そういう人だ。
まあ、飽きたなら飽きたで構わない。ただ、それならその旨をメンバーに伝えるなどして、ゲーム制作チームを解散するなり、責任を果たす必要があるのではないか。まぁ、ここまで人を集めて時間をかけたものを「止める」と宣言するのは、相当な勇気が必要なことだろうが。
何にしろ、主導者不在のまま、ゲームの制作はゆっくりと続けられることになった。なった、というか、ずるずると続けられた、という方が正確か。